えてくれたのは、窓越しに見た時とは見違えるように溌剌としたルミであった。
「さあさあお前の好きなお客様だ、お茶をもって来ておくれ――」
 実のところ、私はルミにお茶をとりになど行って貰いたくはない位であった。
 だが、ルミは従順に頷いて、部屋を出て行ってしまった。そして、なかなか帰っては来なかった。
 森源は、例の癖である小鼻に皺を寄せて、にやにやと笑うと、
「ルミは、非常にあなたが好きらしいですよ――」
「…………」
 私は一寸返事に困って、唯無意味なにやにや笑いをかえした。
「実際、ルミはあなたが好きらしいのだが、――不幸なことにあれは僕なしには、一日も、いや一時間も生きてゆけないのだしね。それに、僕もあれを手離したくはないのだ、といって、誤解はしないで下さい――」
 私はその森源の言葉を了解することが出来なかった。何か奥歯に、ものの挟まったようないい方が、どうも私にはピンと来ないのだ。
 丁度その時、やっとルミがお茶を運んで来たので、一寸言葉のとぎれた、まずい空気がほっと救われたように思った。
 ルミは、銀盆の上に、紅茶を二つのせて来た。
「まあお前もそこへお掛け――」
 森源の
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