ぐ冷房機が調節する、釦《ボタン》一つで折畳の椅子テーブルが壁から出て来るといった有様で、まるで話に聞く電気屋敷そのままであった。
おそらく、森源自身が手を煩わさなくてはならんのは、ネクタイを結ぶこと位であろう。顔を洗うのでさえ、洗面台に顔を出せば定温水が噴出して来て、具合よく洗い流してくれるというのだから――。
「どうも、まるで科学小説の中の人物みたいですね」
何時か私は「そうかね」式の言葉から「ですね」に改ってしまった。そして、壁から飛出して来た一つの椅子に腰をかけ、テーブルの上のタバコ盆の蓋を取った。すると、バネ仕掛けのように最初の一本が浮き上って来たけれど、手を伸してみると、それには、ちゃんと火が点いているのであった。
私は、果してそれを、口に咥《くわ》えて吸うのかしら、と錯覚した位である。
「科学小説――」
聞きとがめたように、森源がそう呟くと、続けて
「遠藤さん、といいましたね、――その科学小説というものを愛読されているんですか。そして、どう思います?」
「愛読、というわけでもないのですが、勿論きらいでもありません」
「そのきらいでもない、というのは所謂科学小説の架空
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