だ。大体月までの平均距離は三十八万|粁《キロ》ばかりある。それを一秒間に五百米のスピードでロケットを飛ばして行ったとすると約八日と二十一時間かかるんだ。一秒に五百米なんていうスピードは一寸想像も出来ない。ましてそれだけのスピードを持たすための初速度は実に物凄いもので、たかが市内電車の急発車でもひっくりかえるような人間は、ロケットが飛出した瞬間に床に叩きつけられて死んでしまう位がオチさ。しかしそれの予防法は出来た。……が、第一回のロケットの出発の際に十分の一秒、つまり計算上|,《こんま》の打ちどころを一桁だけ間違ったために、いざそのロケットが月に到着する時になって七千五百二十六万四千米ばかりも喰い違いが出来た。えらいことさ。第一回のロケットはそうした訳で、月の通ってしまったあとの、空ッぽのところに飛んで行ったんだ……」
「……そして、どうなったんです」
「……そして、肝腎の月に行きあたらなかったから、そのロケット日章島第一号は、今も果てしもない大宇宙を飛んでいるよ。闇黒の零下二百七十度の中を――。無論もう酸素も食糧も尽きただろうから十五人の地球人の死骸を乗せた棺桶となったロケットが飛びつ
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