んか惜くないと思ってるんだ――といきなりいったって、君には解ってくれまいけど』
『どんなわけなんだ一体、はじめからいってくれ給え……』
『うん……』
黒住は軽く咳き込むと、すぐ続けた。
『実は、いま人間は眠らないでも、いいという実験をしてるんだ……』
(この男、気が狂ったのではないか――)
私は、しげしげと彼の顔を見直した。
『そういったって、君は信じてくれないだろうけど、これは実際なんだ、現に実験中なんだ』
『君。バカなことをいっちゃいけないぜ、しっかりしてくれよ、一晩徹夜したって疲れてしまうのに、眠らないでいられるもんか――』
(バカバカしい) 私は吐出すようにいった。
『いや』 黒住は、平然と続けた、
『君、そんなことをいうのは認識不足だよ、一寸例をとれば――ほら君自身だって経験があるだろう、四月までは八時半始業だった学校が四月からは八時になる、三十分早くなれば三十分早く起きればいい、それは二三日つらいけど、すぐ馴れちまう、それだよ、この習慣というやつを利用するんだ、これなら出来るだろう――』
(それはそうさ、三十分位――)
『それを考えたら出来る筈じゃないか、あした[#「あ
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