妙至極なことであった。最初のギョッとした愕きが覚めて来るにつれて、川島は今度はその疑問にしっかり胸を抑えられてしまった。
彼女は相変らず無言だった。而も彼女はひどく美しいのだ。それは全く予期もしていなかった山の中で、ひょっくり逢ったという特別な条件ばかりでなしに、たしかに都会の中に混ぜ込んでも、くっきりと一際目立つに違いないと思われるほど、彼女は美しいのだ。それは決してのしかかって来るようなアクティヴな美しさではなかったけれど、丁度その彼女の纏っている聊か流行おくれなワンピースの碧羅が、しっくりと吸い附くように似合うような、静かな柔かな美しさであった。
川島はいままで、これほどに緑の服の似合う少女を見たことがなかった。同時に、これほどまでに胸を搏つ美しさにも逢ったことがなかった。
川島は気がついたようにまだ艫を抑えていた手を離して、立ち直すと、重いリュックサックを肩から外《はず》し、輝いている沼を背にした逆光線の彼女に微笑しながら話しかけた。しかしその言葉は、何時もに似ず甚だぎこちないものだった。
「おどろきましたねえ、まさかこんなところに人がいるとは思いませんでしたよ」
彼女
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