いた方が、よっぽどましだった筈である。
 また、考えて見れば、山の中で偶然出逢った男などに、年頃の、しかも美貌の少女の秘密などを――例えそんなものがあったとしても――わざわざ呼止めて打明けるであろうか。
 ――川島は、自分自身の甘さ加減に舌打ちしたくなった。
「なるほど。よくわかりました。ぼくはこの浮世を棄てた山の中で研究に没頭されている吉見さんの研究所から、素晴らしい植物が生れ出るに違いないと思いますよ――では、ぼくは」
 しかしその最後の言葉は、吉見に聞えなかったようだ。吉見は、いいながら腰を浮そうとした川島を、その両の手を制するように振って押し止《とど》め、
「そう、そうなんだ、いかにもわしはその君のいう素晴らしい植物を作ったんだ、到底、いや絶対にといってもいい位君は信じないだろうが――、つまり先刻《さっき》君が見た三人の少女を」
「なんですって?」
 川島も、思わず訊きかえした。
「あの三人の少女は、われわれのような人間ではない、動物ではないんだ、植物なのだ。植物から進化した人間、なのだよ」
「…………」
「勿論、君はそんなことを信じやしまい、今までの誰にしたって同じことだった
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