、つづけて二三回も欺してやるともうその次には反応をしなくなる、これこそ植物にも感覚と記憶があるという疑いのない証拠なんだ」
「ははあ、しかし一般に植物は動物みたいに活溌じゃありませんね」
「そう、そこだよ、その違いがこの二つの物の、最も根本的な違いなんだ、植物の奴は動物と違って食糧の残滓を体の外に棄てることを知らない――、それが不活溌なことの最大の原因なんだ、動物にしても海鞘《ほや》のように腎臓のない規則外れの奴があるが、こいつは迚《とて》も動物とは思えないほど鈍間《のろま》なんだから、このことからも残滓の排泄を知らないで、全身中にへばり附けている植物は不活溌だろうじゃないか」
「…………」
相槌を打っていようものなら、吉見はおよそ何時間でもこの奇妙な話をつづけているに違いなかった。
川島は、さっきの吉見の口ぶりから、なんとなくあの美しい洋子達に関しての秘密でも打明けられるように勝手に思い込んで、ついうかうかとこの妙な小屋について来た経緯《いきさつ》に少しずつ後悔を覚えて来た。こんな別の世界のようなことを、長々と聞かされるくらいなら、あのまま分れて、陽のあるうちに目的の熊野川へ出て
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