は返事の仕様がなかった。
「植物です、緑色に見えるでしょう、葉緑体をもった立派な植物なんです、動く植物、動物のように活躍する植物なんですよ」
 吉見の眼は、その奇妙な言葉とともに今迄にない生々とした色を浮べて来た。

      五

 川島は、脚のせいかそれとも床のせいか、兎《と》も角《かく》ガタガタと坐りの悪い椅子に腰をおろしながら、少々あっけにとられた形で吉見の言葉を聞いていた。
 吉見はまるで話したくてたまらなかったところへ、思いがけない無二の聞き手を見つけ出した時のようにびっくりするような熱心さで話しつづけるのだ。
「どうです、今君が、その眼でシカと見たように、植物の祖先も又動物の祖先のように活溌に動き廻っている。なるほど高等な動物と、高等な植物とは一見して判るけれど、しかしそれを遡ぼって行くにつれて、その境界というものは、甚だあやしくなって行くんだ。松の木と、その上に登っている猿とは一つとして似てはいない、それはお互いに分れた道を頂上まで登りつめているからだ。けれど、それを逆に次第に元へ戻って辿って行けばやがていつか同じ一本の元の道になってしまう。松も猿も、ともに養分を摂り
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