にかけ、そのあとに続いて行った。
 まだ柏の幹のそばに佇んでいた二人の少女は、はじめて気がついたように、しかし相変らず無言のまますんなりと避《よ》けて、細い径《みち》を譲ってくれた。川島はその傍らを通り抜けた時に、何か、咲き乱れた花束のような匂いを感じた。
 径は、絶え絶えに細くつづいていた。径というよりも、少しばかり踏みかためられた木々の間を、心もち右肩を落して歩く吉見のままに従って行った感じだった。
 が、案外に早く崖が切れて、丸太造りの小屋についたのは沼のほとりから二三分のところであろうか。
 その小屋は一寸見たところ四五坪ぐらいのもので、ひどくお粗末な別荘といった感じだった。
「母屋《おもや》はも少し向うだけれど、まあここでお話しましょう、ここの方がいい」
 吉見はそんなことを呟くと、蝶番が茶色の粉を吹いたように錆ているドアを押して、招じ入れた。
「ここはわしの植物学研究所なのだ、尤も所長兼小使だが……」
 冗談らしくいったが、なるほどそういわれればその一部屋きりの小屋の中には、試験管だの、フラスコだの、顕微鏡だのそういった器械類が、丁度中学の時の化学教室を思い出させるような恰
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