流行おくれとはいえ碧羅のワンピースを纏った美少女と、胡麻塩の髭をもった吉見という男に、めぐり遇ったことからして偶然といえば偶然な出来事であったのに、その上に又、洋子と呼ばれる一眼で若い川島の心を摶った美少女と、そっくり同じ、まったく其儘な美少女が、あと二人も現われて来ようとは、その場に居、この眼で現在自分が見ていながら、なかなかに自分を信じ切ることが出来なかった。
あとから現われた二人の少女も、洋子と同じような碧《あお》い薄物のワンピースを着ていた。たった一つの違いは、この三人のワンピースに縫取りしてある模様が、菊と薔薇と百合と三種類になっていることだった。最初の洋子に、菊の刺繍があったことを覚えていなかったならば、そして洋子がボートから降りてあとの二人の中に混ってしまったならば、川島は二度と彼女を見分けることが出来なかったに違いないのだ。
つい先刻《さっき》まで川島は、一眼見た洋子の美しさと好もしさを、都会の無数の女の中に混ぜこんでも直ぐに見分けられると思っていた。だが、それはどうやら怪しくなってしまった。
(洋子たちは三つ児だろうか――)
双生児《ふたご》ということはよく聞く
前へ
次へ
全28ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング