常識以上のものは何事によらず変った眼で見ようとする、ぼくが此処で変った生活をしている理由をいって聞かせても、テンから信用しようとはしないのだからね、――けれど、君はそれを聞いてくれるだろう?」
胡麻塩の男は、その風貌に似合わぬ若々しい言葉と声で話し出した。その話しぶりから察すれば、この男は前にも誰かに自分の変った謀《たくら》みについて語って、全く相手にされなかった不満さを持っているらしい。
しかし川島は、真面目に頷いた。この男がともかく谷間を堰止めてこれだけの沼を造ったという奇妙な仕事も、傍らにいる美しい洋子に関することならば聞いて決して悔いないように思われた。寧ろ自分の方から聞き訊ねたいくらいであった。
此処ではじめて初対面らしい挨拶を交して、川島はこの男が吉見という名であることだけはわかった。そしてその言葉つきからこの辺りの者ではなく、関東――というよりも東京に若い時分を送ったのであろうということも、想像がついた。
吉見は、しばらく眼を伏せていた。それは何からいい出そうかと迷っているようにも見えた。
が、間もなくその太い静脈の絡みついた手を挙げると
「ともかく、あれを見た
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