そんなことが出来るんかね、一向に音らしいものは聴こえなかったが……」
「出来るかって現に被害者が続々と出ているじゃないか……、音がしなかったというが、しなかったんじゃないよ、ただ聴こえなかっただけなんだ、つまり人間の耳の可聴範囲外の、毎秒三四万振動ぐらいの超音波だったから人間にはなんにも聴こえない――。けれどもその超音波といっても色々あって、調節して人間の鼓膜には一向感じないけど、直接に頭蓋骨を透《とお》して脳髄に響く超音波も出来るわけだ。それを利用したんだ、君ね、一定の単調な音を聞いていると睡《ねむ》くなるような経験はないかい……、それさ、それと同時に、これは脳髄をしびれさすような力を持っている筈だ」
「…………」
「ただね、相手が音波だしそう強烈なもんじゃないから、先ず子供とか過労者なんかがやられたんだ、しかしこれとても持続してやられたら健康な青年でもたまらない訳さ、だいたい超音波なんてものは近代の、機械文明のせいだからね、電車、汽車、発動機、発電機――工場という工場では物凄い機械が廻っているし、そのなかには、喧《やかま》しい騒音とともに、聴こえない超音波が、非常に発生しているわけ
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