ヤだった。
「まあ可愛い、一寸《ちょっと》抱かしてね……」
 早速ハルミが抱いてしまって
「なんて名前――? ほしいわ」
「都合によっては、やらんこともない――」
「まあ、ほんと」
「ほんと、さ」
「おい、喜村。こういう手があるとは知らなかったね」
「はっははは」
「ねえ、なんて名前よ」
「名前か――、ムラタ」
「ムラタ? ――ムラタ、チンチン」
「くさらすない」
 村田は、むっとしたように眼をむいた。
「はっははは、しかし可愛いだろ、こんなのは余興だけど家にゃ素晴らしいのがいるぜ、犬の王者のセントバーナードの仔《こ》もいる、こいつは少し、混《まざ》っているかも知れんが」
「なあんだ」
 村田は、一寸|鬱憤《うっぷん》をはらして
「今、何処《どこ》にいるんだい……、矢ッ張り前の大森……」
「いや越したよ、茅ヶ崎にいる、大森あたりはじゃんじゃん工場が建っちまってね、犬の奴が神経衰弱になるんだ」
「おやおや、お犬様――だな」
「空気もいいしね……」
 喜村は、一寸弁解らしくいって
「それに、こう冬になってまで眠り病が流行《はや》ってちゃ都会はあぶないよ」
「まったく……」
「そうだ、丁度今
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