そんなことが出来るんかね、一向に音らしいものは聴こえなかったが……」
「出来るかって現に被害者が続々と出ているじゃないか……、音がしなかったというが、しなかったんじゃないよ、ただ聴こえなかっただけなんだ、つまり人間の耳の可聴範囲外の、毎秒三四万振動ぐらいの超音波だったから人間にはなんにも聴こえない――。けれどもその超音波といっても色々あって、調節して人間の鼓膜には一向感じないけど、直接に頭蓋骨を透《とお》して脳髄に響く超音波も出来るわけだ。それを利用したんだ、君ね、一定の単調な音を聞いていると睡《ねむ》くなるような経験はないかい……、それさ、それと同時に、これは脳髄をしびれさすような力を持っている筈だ」
「…………」
「ただね、相手が音波だしそう強烈なもんじゃないから、先ず子供とか過労者なんかがやられたんだ、しかしこれとても持続してやられたら健康な青年でもたまらない訳さ、だいたい超音波なんてものは近代の、機械文明のせいだからね、電車、汽車、発動機、発電機――工場という工場では物凄い機械が廻っているし、そのなかには、喧《やかま》しい騒音とともに、聴こえない超音波が、非常に発生しているわけだ、そしてそのなかのある波長のものが人間に眠り音波として作用するらしい――眠り病が、近代になって突然発生したという意味はこれでわかる、そしてこれを、×国の奴が、早くも大陰謀に悪用したんだ……」
「なるほど……」
喜村は、感嘆したように頷いて
「しかし、そんなことがよくわかったね?」
「それは君、犬のお蔭だよ」
「犬の?」
「うん、昨日からの三つの例に、いつも犬がいた、そして、その時に限って犬が急に落着きがなくなったり騒いだりした、だから僕は、もう一度実験しようと思って二匹の犬を借してくれ、っていったんだけど、その前に今の騒ぎが起ったんで万事解決さ……」
「どうして、ゲンたちにはわかるんです?」
美都子が口を挿《はさ》んだ。
「つまりね、耳がいいんですよ、人間にはとても聴こえない毎秒八万振動ぐらいの音まで、犬には聴こえるんです、だからあの眠り音波が唸り出すと、五月蠅《うるさ》くって仕様がないんでしょう、それでそのたびにワンワン吠《ほえ》て怒るんです……僕達には、何んにも聴こえないのに犬が騒ぎ出す、というのから逆に考えて超音波を思いついたんですよ、だから都会生活というのは、犬にとっては
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