「いたましい」に傍点]思い出であろう。彼は幾度《いくたび》か彼の女|銀子《ぎんこ》の幻像を撲倒《なぐりたお》し引《ひき》千切りしてきたのだが……と同時に、又自分自身を嘲笑《ちょうしょう》する言葉もあったろうが――歩き廻っているうち、いつの間にか、そんな荒れ果てた景色の中に、自分自身を発見したのであった。
フト気がついてみると、次第に酔は醒《さ》めて来たらしく、思わず、ぶるぶるッとする寒さが、身に沁《しみ》て来た。そして、飲みなれぬ酒は中田の頭をすっかり掻《か》き廻《まわ》してしまったらしく、頸《くび》をかしげる度に頭の中で脳髄が、コトコトと転がるように感じた、
(どうにでもなれ――)
彼は、口の中で自分を罵《ののし》ると、グッと外套《がいとう》のポケットに手を突っ込み、又、ひょこりひょこりとあるき出した。
蕭条《しょうじょう》と荒れ果てた灰色の野の中を、真黒い外套と共に、あてもなく彷徨《さま》よっている中田の顔は、世にもすさみ[#「すさみ」に傍点]切った廃人のそれであった。
×
それから又、どの位時間のたったものか、やはりハッキリしたことはいえないのだが、その荒涼た
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