孤独
蘭郁二郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)何時《いつ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)どっしり[#「どっしり」に傍点]した
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 洋次郎は、銀座の裏通りにある“ツリカゴ”という、小さい喫茶店が気に入って、何時《いつ》からとはなく、そこの常連みたいになっていた。と、いってもわざわざ行く程でもないが出歩くのが好きな洋次郎は、ツイ便利な銀座へ毎日のように行き、行けば必ず“ツリカゴ”に寄るといった風であった。
“ツリカゴ”は小さい家だったけれど、中は皆ボックスばかりで、どのテーブルも真黒などっしり[#「どっしり」に傍点]したものであり、又客の尠い為でもあろうか、幾ら長く居ても、少しも厭な顔を見ないで済むのが、殊更に、気に入ってしまったのだ。
 何故ならば洋次郎は、その片隅のボックスでコーヒーを啜りながら、色々と他愛もない幻想に耽けることが、その気分が、たまらなく好ましかったからであった。
 そうして何時か黄昏《たそがれ》の迫った遽《あわただ》しい街に出ると、周囲のでかでかしいネオンサインの中に“ツリカゴ”と淡く浮くちっぽ
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