けなネオンを、いじらしくさえ思うのであった。
そうして今日まで交《かよ》う中、洋次郎は図らずも今この“ツリカゴ”の中で、一人の見知らぬ男に話しかけられた。その男は洋次郎よりも古くから、店の常連らしく、そういえば彼が始めてここに来た時に、既に何処かのボックスで、一人ぽつねんと何か考え事をしていたこの男の姿が、うっすら[#「うっすら」に傍点]と眼の底に浮ぶのであった。
その男――原と自分でいっていた――は、人より無口な洋次郎にとっては随分雄弁に色々と話しかけて、洋次郎自身一寸気味悪くさえ思われた。
然し、洋次郎はこの男の話を聴いて行く中に、それが何故であるかが、段々解って行くように思われた。
(この男、懐疑狂だナ……)
如何にもこの男の話は妙な話であった。それでいて洋次郎には、一概に笑ってしまえない、胸に沁透る何かがあった。
――あなたもよくこの家へ来られるようですが、その途中で何時も同じ人に会うことがありますか。
原という男は、そんなように話した。
――さあ、そういえばないようですね。
――さようでしょう、私にはそれが、非常に妙な気持を起させるのです。毎日毎日街上で、或は
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