あった、としたら、非常にガッカリした、空虚な気持になるだろうと思います。心弱い私には、この見知らぬ顔に取巻かれた気持が、堪えられないのです。
 洋次郎は燐寸《マッチ》をとって、パッと擦った。原はそれを見ながら、突然、
 ――ところが、僕はその気持が大好なんで、
 ――?
 洋次郎は原が急にぞんざいな言葉で、変なことをいうので吸いかけた莨を、思わず口から離した。
 原はビクッとするように狼狽して、
 ――いやいや、騒然たる中の空虚、織る人込の中にこそ本当の孤独があるのです。恰度《ちょうど》紺碧の空の下にのみ漆黒な影があるように、……
 ダガ、洋次郎は、もう答える事が出来なかった。あの貰った莨を一口吸った時から、心臓が咽喉につかえ、体は押潰されるようにテーブルの上に前倒《のめ》って、四辺《あたり》は黝く霞み、例えようもない苦痛が、全身に激しいカッタルサを撒散《まきちら》し乍《なが》ら駈廻った。
 そうして薄れ行く意識の中に、原の毒々しい言葉を聞いた。
 ――さようなら。私は孤独を愛するのです。それを愛するばかりに、乱されたくないばかりに、あなたに死んで貰うのです。孤独は総てに忘れられ、総て
前へ 次へ
全5ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング