お手紙を、いよいよ開通することになりました大東亜航空便に托してお届け申し上げます。御心配をかけましたが、村尾さんから木曾さまに妙な手紙を差上げましたというのは、これはすべて私の責任なのでございます、村尾さんが余りお仕事に夢中になっていらっしゃいましたので、つい浮き浮きしておりました私が、ほんの悪戯《いたずら》心から、こんな御心配をかけようとも知らずに、実験室の水銀の一粒を、そっと仁丹の(あの銀色をした小粒の)一粒と置きかえて置きまして、あら、実験にもかかられない前に、もうこんなに変ってしまいましたわ、きっと村尾さんがあんまり熱心だからですわね……と申しましたところが、村尾さんは私の冗談を笑われるどころか、急に、それ以来とても考えこんでしまわれたのでございます、とても悪いことをいたしました、あまりお仕事に夢中になっていられますので、お体にさわっては、と思ってした悪戯が、却って何故かひどく村尾さんを愕かせてしまったのでございます、そしてもう、私が何を申しても、それは冗談だったと繰返し申しても、少しも聞こうとはなされません……、泣くにも泣けない私は、でも丁度幸い、外出の出ました兵隊の兄にわざ
前へ 次へ
全40ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング