撃による元素変換に熱中した揚句、少しどうかしてしまったのではないか、と心配になって来た。しかしその手紙の行間には少しも冗談らしいところもないし、なお悪いことには、最近やっと研究のすすめられている原子破壊によって生ずるエネルギーというものは、実に想像を絶する莫大な魔力を持っていて、この力によれば、事実この地球そのものの爆砕も決して不可能ではないということだった。
 しかしなぜ又、村尾はこんな風に、極小世界と我々の世界と、それから極大世界とを混同してしまったのであろうか――。木曾は眉をしかめて、二度も三度もその村尾の手紙を読返して見た。そうして見ると、最初にさーっと読んだ時に感じたばかばかしさというものが次第に薄れて、なんだか、その底から鬼気迫るようなものをさえ感じて来た。村尾の不安が、事実容易ならん予言のようにも思われて来たのである。それで、すぐ様石井みち子あてに手紙を書いた。
 木曾礼二郎から石井みち子あての私信。
 ――東京は大変な暑さです、そちらはきっと東京より涼しいことと思います、お元気ですか。さて、突然ですが(そういえばこの前の石井さんの手紙に村尾君がひどく熱を上げていると書い
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