えいたします、研究所も、思いのほか立派な建物をそのまま頂戴いたしまして(以前にはココ椰子の会社だったそうでございます)いま私がこのお手紙を書いております部屋を、丁度赤道が通っているのだそうでございます。
私の仕事――赤道上に於ける南北極の磁力の影響――ということは、まだまだどういう結果になるかわかりませんけれど、いずれ準備が出来ましたらオッシログラフで精しい曲線を取ってお知らせ申し上げますが、一寸考えただけでは、両極から同じ距離にある赤道の上では、両極の磁力の力が平衡しているように思われますのに、実際は始終どちらかに浮動している様子でございます、これはだいたいいつぞや申されましたように地球の極がふらふらしておりますためか、地球が、鋼鉄で出来た永久磁石のようにはっきりとした磁石でないせいか、それとも、空気中の電磁的影響のせいか、なかなかむずかしい事のようでございます、それからもう一つ面白いことは、赤道の上ではどうやら北極――北半球から来る磁力線の方が、南から来るものよりも多いようでございます、これは普通の磁石ならば、その両極から出る磁力線の数が同じである筈でありますのに、こういう違いがあると申しますのは、どうも考えられない妙なことでございます、これもまた、地球というものが、私たちの知っている磁石とは別のものでありますのか、或いは又、南からの磁力線が宇宙の中に吸収されてしまいますのか、それとも、北半球には南半球に比べてずっと陸地が多いということが、何かの原因になっておりますのか――。
ずいぶん堅いお手紙になってしまいました、こんなことを書くつもりではございませんでしたのに、つい今、気にかかっておりますので筆が正直なことを書いてしまいました。それから、村尾さんたちのサイクロトロンは、まだ準備に時間がかかるようですので、それまで私の方を考えて頂こうと思っております。
昨日の川蒸気で、ポンチャナクから日本のお味噌を持って来てくれました、それで今朝は、とてもおいしい味噌汁《おみおつけ》が出たことをお知らせいたします。五月十二日附―。
五
村尾健治から木曾礼二郎あての私信。
――東京は、この手紙が着く頃はそろそろ梅雨《つゆ》にはいることと思います。東京のあのじめじめと降りつづく雨から、僕たちは開放されたわけです。青空、そして豪快な雨――。僕は内地が世界
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