世界ではない。
 その筈なのに、ふと気がついて見廻したあたりの様子は、何んとも得体の知れぬ、とてもこの世のものとは思われぬ――つまり想像し難い別世界の有様なのであった。

     化物果実

「昌作さん――」
「なんだい英ちゃん――」
 二人は、無意味にお互いを呼びあっただけで、あとが続かなかった。
 火星の話が、なんだか気味の悪い生物の話になっていたせいばかりではなく、このあたりの様子は、とにかく断じて普通の眺めではなかった。
 丁度、大村の話が火星の進化した植物の話になって、火星にももし栗の木や柿の木があったとしたら……と指差した傍らの栗の木が、まず第一に気のついたはじめだった。
 というのは、そのすくすくと伸びた栗の木の枝には、なんと五寸釘のような棘《とげ》をもったお祭り提灯のような巨大な毬《いが》が、枝も撓《たわわ》に成っているのである。中にはすでに口を開けて、炭団《たどん》のように大きな栗の実が、いまにも澪《こぼ》れ落ちそうに覗いてさえいるのだ。いや、それだけならばまだいい。
 その少しさきにある柿の木などは、これこそ見馴《みなれ》ぬせいか見事を通り越して、気味が悪いというか何んというか、大きなフットボールのような柿の実が、陽射しを受けて艶々《つやつや》しく枝も折れんばかりに成っているのである。――とても信じられぬ有様だった。
 大村にしても英二にしても、もし独りでここに来たのだったら、到底信じなかったに違いない、見間違いとして、却って自分の眼の方を疑《うたぐ》ったに相違ないのである。またそうだったら、あとからも他人《ひと》にこんな話をする気にもなれなかったであろう。――誰だってこんな途方もない栗や柿の話など、バカバカしいばかりで、とても信じてはくれそうもないからである。
 だがしかし、今は二人だった。二人の四つの眼で、たしかにそれを見ているのである。
 大村と英二は、一寸顔を見合せてから、急にすたすたた[#「すたすたた」はママ]と歩き出した。巨大な実をもった柿や栗の化物のそばから、とにかくはなれるつもりだった――が、それから二三十|間《けん》も行ったであろうか、道の両側が畠のように展《ひら》けているところまで来て、またまた愕《おどろ》かされてしまったのだ。
 これは確かに畠であろう、しかし糸瓜《へちま》のように巨大な胡瓜《きうり》、雪|達磨《だるま》の
前へ 次へ
全11ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング