かかるサナトリウムの全景を、じーっと見廻した。
諸口さんは目を半分閉じて、番茶を啜っていた。
三、夕暮は罌粟《けし》の匂いがする
私は食事をすますと、その足でマダムを見舞った。マダムは真白いベッドの中に落ち窪んだように寝、蒼白な額にはベットリと寝汗をかいて、荒い息吹《いき》が胸の中で激しい摩擦音をたてていた。
若い看護婦が一人、どうしたらいいだろう、というように、濡れた手拭《てぬぐい》を持った儘、しょんぼりと椅子にかけて、マダムの寝顔を見守っていた。
私はふと落した視線の中にベッドの傍の金盥《かなだらい》を見つけ、そして、それになみなみとたたえられた赤いものを見ると、何んだかとても悪いことをしたような気がして、その儘、あたふたと部屋を出てしまった。
部屋を出ると、入口のところに諸口さんが立っていた。
「どお……」
「……」
私は黙って首を振ると、長い廊下を歩き出した。
(駄目だ……)
口の中で繰返した。
(それにしても青木のやつ、どうしたんだろう……)
通りがけに青木の部屋を覗いてみたが、そこはガランとしていた。
×
部屋へかえると食後の散
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