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一乗寺の里に住みける夏。
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焼けしうへ一雨《ひとあめ》そそぐゆふだちのしめり涼しく土の香の立つ

ゆふだちに濡れし鴉の羽たたきに桐の花ちる夕あかりかな

枕つく妻屋《つまや》もささで夏の月入るまでを見ん夜の涼しさに

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明治二十六年の夏、子等の集ひきて、祖先を初め、無縁となれる身《み》内《うち》の亡き魂をまつりて供養しけるうれしさに。
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ありし世をしのぶにゆかし亡き人の魂の行方と蓮葉《はちすば》を見て

はらからか親か啼く音の身にしみて袂ぞしめる山ほととぎす

父母のむかししのびて盆《ぼに》すれば袖こそしめれ花を折るにも

親のため盆《ぼに》する宵の松虫はわが待つ魂の声かとぞ聞く

亡きかずにいつか入らんと父母の魂まつるにも我世をぞ思ふ

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夏田家。
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しらしらと咲きめぐりたる夕貌の花の垣内《かきつ》に馬洗ふこゑ

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某の別墅にて
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