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うつそ身もさこそ葛葉《くずば》の露ならめ憂き世の中を恨みてぞ散る
わが死なば山になびかん浮雲を行方しられぬ形見とも見よ
千とせをも猶世は足らじ命こそ人笑へにも生きまほしけれ
誰問はんわが後もこそ悲しけれ世にありてさへ疎まれし身を
わが後を思ふ人ありて問はませば苔むす石ぞさびしからまし
老いぬれば世に疎まれつ月の行く山の端にこそ入らまほしけれ
わが憂きに人もはかなく思ふかな物のあはれは老いてこそ知れ
さりとても身をば心のはなれねば猶火はあつし水は冷《つめた》し
路の辺の蓼生《たでふ》に骨はさらすとも思はぬ人のなさけ受けめや
憂きことよ猶身に積れ老いてだにまだ世に飽かぬ心知るべく
老いぬれどはぐくむ人もなかりけり身は草木にもあらじと思ふに
枕守るともし火ならで泣寝《なきね》する老のあはれを見る人もなし
馴れこしは七十路までの月なれば行く路てらせ死出の山辺の
七十路の春こゆるまで生きたれど馴れこし世には猶飽かずけり
あさましくわが身ばかりを歎くかなひと日も人の為《ため》ならずして
明け残る有明の月とわが老は世にあさましきこ
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