[#ここで字下げ、20字組み終わり]

うつそ身もさこそ葛葉《くずば》の露ならめ憂き世の中を恨みてぞ散る

わが死なば山になびかん浮雲を行方しられぬ形見とも見よ

千とせをも猶世は足らじ命こそ人笑へにも生きまほしけれ

誰問はんわが後もこそ悲しけれ世にありてさへ疎まれし身を

わが後を思ふ人ありて問はませば苔むす石ぞさびしからまし

老いぬれば世に疎まれつ月の行く山の端にこそ入らまほしけれ

わが憂きに人もはかなく思ふかな物のあはれは老いてこそ知れ

さりとても身をば心のはなれねば猶火はあつし水は冷《つめた》し

路の辺の蓼生《たでふ》に骨はさらすとも思はぬ人のなさけ受けめや

憂きことよ猶身に積れ老いてだにまだ世に飽かぬ心知るべく

老いぬれどはぐくむ人もなかりけり身は草木にもあらじと思ふに

枕守るともし火ならで泣寝《なきね》する老のあはれを見る人もなし

馴れこしは七十路までの月なれば行く路てらせ死出の山辺の

七十路の春こゆるまで生きたれど馴れこし世には猶飽かずけり

あさましくわが身ばかりを歎くかなひと日も人の為《ため》ならずして

明け残る有明の月とわが老は世にあさましきこ
前へ 次へ
全79ページ中61ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 礼厳 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング