手もかをるなり花のしづくや水に散るらん

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おなじ頃、或夜門さしたる後、友の来て叩かで帰りぬと聞きて。
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帰りけん霞の閉づる柴の戸はなど叩かぬやうぐひすの友

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物おもふ頃。
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苔の上にひとり咲き散る花なれば惜む人なし見る人もなし

老いぬとて捨てんものかは古川の朽柳にも芽は萌えにけり

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桜四首。
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楯倉や御祖《みおや》の宮の河合に咲きおどろかす一もとの花

靱《ゆき》負ひて太刀を佩きたる物部《もののふ》のよそほひしたる山ざくら花

朝のかぜ吹けば野寺の茅葺《かやぶき》に雪のはだれと散るさくらかな

亡き世にも苔の下《した》にて花を見んさくらばかりに心のこれば

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宇田淵と詩仙堂に遊びて。
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かきこもる木陰かすかにともす火のうつるも涼し山のやり水

山かげの滝の音《と》きよし蜩
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