奥なれば知らでや夏のおとづれもせぬ

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おなじ頃、蓮の咲きければ。
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山寺の杉間すずしくかをるかな花さき出でつやり水の蓮

よそに見て蓮《はちす》の音をちらさめや来ん世にかをるわが魂にせん

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落葉二首。
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桑やなぎ風に黄ばみて散る頃は日影もかなし野辺の夕ぐれ

こもりたる樋守《ひもり》が家の川柳ちればあらはに月のさし入る

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寒月。
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枯れすすき霜にきらめく影更けて荒き裾野に月白く照る

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高野川のほとりに住みける春。
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月よめば春は遠けどあらたまの年立つ日には山の霞める

柳のみ春しりがほに青むかなこぼれし壁をわび人は守《も》る

降るままに柳をつたふ春雨のしづくの珠を蜘蛛《ささがに》の貫《ぬ》く

たらちねの少女子すゑて守るばかりわが守る花を折りゆくや誰

高野川わがむすぶ
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