のあはれなりければ詠める。
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直土《ひたつち》に藁《わら》解《と》き敷きて寝《ね》ぬること常と思へば悲しきものを
いとほしき妻と子等とに食はすべき飯《いひ》もなきまで貧しきや何《な》ぞ
春されば花うぐひすと人は言へど心も向かず飯《いひ》に饑うれば
荒寺《あれでら》の柱をつたふ雨の音|板《いた》たたくにも心くだけぬ
男子《をのこ》はも国を歎けど若草の妻の歎くは家のため子の為《ため》
有馬なる出湯《いでゆ》には身もふれなくに朝夕いかに袖のしをるる
世の中のさわぎならねど寝《い》をぞねぬあなかま風の竹に鳴る夜は
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一乗寺の里に住みける夏。
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菜の花の殻《から》うち落し実をとりて赤く野火たく夏の夕ぐれ
あやめ草引く手ににほふ田の溝《みぞ》の小水葱《こなぎ》が花も移し植ゑてん
うたたねに夜は更けぬらし漏る影の簾にうすき夏の夜の月
風吹けばしづくとなりてはらはらと秋告げて散る楢の木の露
かよわくて夏痩したる老が身にてる日を避《よ》けよ夕立の雲
わが庵は竹の林の
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