しみじみとさびしきは薄霧のぼる雨のゆふぐれ

葛の葉の玉巻く風も見えそめてうら悲しきは初雁のこゑ

わび人の住める野末の霜枯に松の戸ほそく立つ煙かな

小山田の稲城《いなき》はなれぬ稗鳥《ひえどり》を吹きおどろかす引板《ひだ》の夕風

冬枯の檐端あらはにさびしきは瓜生の霜に柳ちる頃

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清閑寺に住める頃、清水坂に、おもてに猿を繋ぎて世のいとなみとする家あり。山の出で入りにそを見るが悲しくて。
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身一つも世はうし苦し手を合す猿を見るにも涙こぼれぬ

餌乞《ゑごひ》して手を合せたる飼猿《かひざる》を我とし見れば身にせまるかな

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馬。
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牧の馬蹴あげ荒るれど益荒男は手綱たぎつつ鞍無しに乗る

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煙。
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立ちのぼる野辺の煙をわがはてと思へば安し心きよけし

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柳二首。
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根は水に洗はれ
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