にも似るか山ほととぎす

啼きさして山子規わがここだしのばく知らにいづち行きけん

ほととぎす汝は前《さき》の世の何なれや幾日《いくか》啼くにもあはれと我が聞く

世に知らぬみ山の月の涼しきに子規さへなぐさめて鳴く

ほととぎすあはれの鳥と言《い》ひつつも啼かねば待たれ啼けば悲しも

ほととぎす待たねど宇多の中山は必ず来啼く雨の夕ぐれ

世を捨てし老が耳にも聞く時は山ほととぎす涙ぐましも

ほととぎす物思ふ夜はわがこころ鳥さへ知るか常ゆけに啼く

ひとりゐて黙《もだ》もあらんと思へどもまた音づるる山ほととぎす

[#ここから3字下げ、1行20字組みで]
洛東岡崎の里に住みける頃。
[#ここで字下げ、20字組み終わり]

避けたれど猶世の中か韓碓《からうす》のかせぎけぢかき岡崎の里

山越しの風を時じみわが小田の夕霧ごもりかりがね啼くも

はだれたる雪かとばかり見てぞ行く月の影ちる竹の下路

引板《ひだ》かけて早稲田守るべくなりにけり穂末におもる秋の初風

草の花さきて匂へど蜩《ひぐらし》は来啼けど野辺はさびしくなりぬ

むらがりし霧は谷間にしづまりてほのぼの白む秋の野の庵

秋風の身に
前へ 次へ
全79ページ中48ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 礼厳 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング