小柴垣いふかひもなき庵ながら山ほととぎす聞くにはよろし

汝が啼かんよすがの雨は竹に降る空頼《そらだの》めすな山ほととぎす

み山辺の老木にもがもほととぎす夏来る毎に宿して聞かな

いかばかりあはれの鳥ぞほととぎす聞く人毎に物思ひする

ほととぎす啼くとも知らで入りし山声ぞ落ちくる厳橿《いづがし》がうへに

ほととぎす初音し聞けば苗代に斎種《ゆだね》まきおろす時ぞ来にける

涙知るあはれの鳥よほととぎす物思ふ夜のあかときに鳴く

ほととぎすわが独|寝《ぬ》る床ちかく宿りては啼け妻と聞くがに

独住むみ山の月にほととぎす啼く夜しもこそさびしかりけれ

ほととぎすほのめく声は夏山の若葉に藤の花かをる頃

五月雨はさびしきものをほととぎす独聞く夜は静ごころなし

惜まれし花にもかへてうれしきは初夏山に啼くほととぎす

つらかりし昔の世さへほととぎす聞く世しもこそ思ひいでぬれ

世の中にをかしきものはほととぎす夢にまぎるるあかつきの声

ひと声になぐさめられてみ山路も越えやすかりき山ほととぎす

ほととぎす来鳴きとよもすわが庵の老木の榎こぬれしみみに

つらしとは待つ夜のかずに思ひ知る恋
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