蝶のむつるる現《うつつ》さへ夢に見らるる老が庵かな

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妻初枝と、吉野、高野などをめぐりて。
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あくがれて花に幾夜の旅寝すと知らで家には我を待つらん

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夕立五首。
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はたた神ゆふだつ沖の汐ざゐに鯨うち上げて荒浪さわぐ

大島や麓ゆふだつにはか雨めぐりの磯は汐の濁れる

荒磯の浪に馴れたる離れ鵜も風ながれするゆふだちの雨

うつくしき砂をたたきて打けぶりむら雨すぐる浜の松原

風早《かぜはや》の浦のゆふだち足早み釣舟さわぐ浪立つらしも

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夏の歌の中に。
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杉むらにかがなく鷲の巣に隣る庵こそ夏は涼しかりけれ

江口《えぐち》びと簗《やな》うちわたせその簗に鮎のかからば膾《なます》つくらな

沢の辺に咲く花がつみかつ散ればやがて咲き次ぐ撫子の花

川岸の根白《ねじろ》高萱《たかがや》かげもよし釣しがてらやここに涼まん

堀江川入江の蓮は五月雨に花もよひして茎
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