と窓見れば冴ゆるあらしに椋の葉の散る

雪ふれり隣の友に物申す酒あたためつわが宿に見よ

老が身も晴れたる朝の野にぞ来《こ》し小松の雪の見まくほしさに

寒き夜はいかにしぬがん老が著る春の衣も綿さはに縫へ

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明治二十五年の春、久しくまからざりし丹後国の与謝に下りて。
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与謝の海かすみ立つ日は浦島の釣のむかしもおもかげに立つ

国見るも限とおもへば与謝の海うらなつかしき天の橋立

見も聞きも涙ぐまれて帰るにも心ぞのこる与謝のふるさと

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物思ふ頃、三月になりても鶯の啼かざりければ。
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鶯も世にものおもふ事やあるあたら初音ぞ啼きおくれつる

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おなじ頃。
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折に遇へば如何なる花か厭はれん時ならぬこそ見劣りはすれ

おもふまま身のならませば花を見る春の心に世は過《すぐ》さまし

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明治二十三年二月、大和国月ヶ瀬の梅見にま
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