下げ、1行20字組みで]
高野川に近く住みける夏。
[#ここで字下げ、20字組み終わり]

夏草は刈りはらはねば葺かずとも菖蒲《あやめ》よもぎに埋《うづも》るる庵

家は荒れておほしたてねど竹垣の朽目《くちめ》より咲くなでしこの花

夏草にかくれて住めばいにしへの木の丸殿も思ひこそやれ

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蓮を植ゑて。
[#ここで字下げ、20字組み終わり]

山寺にうつしうゑたる白蓮《しらはす》は来ん世も清くにほひもぞする

やり水に蓮《はちす》の花のかをる夜は枕ただよひ寝られざるかな

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折にふれて、おのれを戒め、かつは人人にも示しける、くさぐさの歌。
[#ここで字下げ、20字組み終わり]

をりをりは驚かぬ身をせむるかな親はらからも過ぎし世を見て

なれる身もなせる心も知られねばおのが僻目《ひがめ》を真《ま》と思ふらん

月と日はたえせず照す世の中を闇と見るこそ悲しかりけれ

心より影をまことと僻《ひが》み見て迷ひの路はひらけ初めけん

我と言ふ名に迷ひ出でて麻糸《あさいと》の有無《うむ》にはなれぬ身こそつらけれ


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