おなじ里に住みける秋。
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あかなくに傾く月の人ならば今しばしとも引きとめてまし

わびしらに啼くや雨夜のきりぎりす薄明《うすあか》りなる月や恋しき

惜む間にいつしか西にかたぶきぬ月吹きかへせ秋の山風

夏蔭とたのみし桐のちりそめて野分おどろく朝ぼらけかな

秋ごとに老せぬ月は見しものを頭《かしら》の霜といつなりにけん

避けたれどここもうき世か枕よりあとより虫の声せめて啼く

秋ふけてやや肌寒してる月の影よりむすぶ夜半の初霜

月に世を思ひかへても遁れきてみ山の秋に夜を更かすかな

恋せぬはすべなきものかあたら夜の月を簀子《すのこ》にささせつるはや

ふふめりし葛花《くずばな》さきぬ秋風をかへる裏葉《うらば》に見るぞ涼しき

野の末にうき世は遠く避けたれど月ばかりこそ疎まざりけれ

かすかなる窓の戸あけてわが影とふたりして見る山の端の月

つたなきを世にこそ蔽へ心までてらす月にはいかが隠さん

蓮は実《み》をむすぶも清きやり水に月ひとり澄む山寺の庭

音づれてさびしきものは枯蓮《かれはす》のうら葉たたきて行く時雨かな

山霧に月はくもりて蓮の
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