く
水にすむ影は手にだにとられねど月のやどりは疑もなし
樹にふるる風の音さへ御法《みのり》なるたのしき国に今ぞ到らん
心だに僻《ひが》まずもがなみほとけの子と説く数に洩れぬ身なれば
世に気息《いき》のかよふ限は唱《とな》へまし仏の御名ぞ命なりける
浮き沈むわれを幾世か待ちませし心ながきは阿弥陀釈迦牟尼
耳も目も思ふままならず老いにけり仏の国や近くなるらん
ひんがしに出でては西に月も日もみちびきますを知らで迷ひき
われは世に免《のが》れぬ罪のあればこそ今は仏に生擒《いけど》られけれ
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明治十六年夏、薩摩より京に帰りて、次の年、比叡の麓一乗寺の里に世を避けて。
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世の中のさわぎに代へて山松の声きく身こそうしろやすけれ
翡翠《かはせみ》も世をや厭ひしのがれきてわが山の井に処定めつ
身の憂さを思ひ放てば放ち鳥|籠《かご》をのがれし世こそ広けれ
比叡の山雲のやどりの松が根に痩せたる老のかばね曝《さら》さん
落葉にもうき世の塵のまじらねば煙も清き松の下庵
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