ば子の為にさへ後《のち》かけてわれ悪しき名は立てじとぞ思ふ

子にこころ暗《くら》む折こそわれ故にまどひし親の闇も知らるれ

足撫槌《あしなづち》手撫槌《てなづち》神も名にし負へば子は古《いにしへ》も愛《めぐ》くやありけん

風に散る花を見てすら惜む世に子等にはなれて住める我かな

子はあれど住む国遠し常はあれ病みてくるしむ折には恋し

子と言へばせめて命の際《きは》ばかり膝をも枕《ま》きて死なんとぞ思ふ

過ぎし世の如何なる咎《とが》か報いきて我には疎き子を持《も》たるらん

世を去りてなからん後《のち》に思ひいでよひとりわびつつ親は死にきと

親と子の世にはえにしの薄けれどなき後《あと》にこそ思ひ知るらめ

折ふしは親の上をも語るやと子を思ふごとに泣き咽びつつ

子を思ふ心はさこそ闇ならめ道の隈囘《くまわ》も見えぬ親かな

山かげの雪間にあさる山がらす汝が声ならで音づれもなし

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菜花三首。
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都より西を霞に見わたせば野は黄なるまで菜の花の咲く

家にのみあるもいぶせし春の野に菜の花さけば心ゆるぎぬ


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