る花も木葉《このは》も嗔らずとながめ悟ればわが法《のり》ぞかし

正眼《まさめ》にて観れば月日も雨風も世に嗔りなき友にはありけり

雲は行く水は流れつ腹黒きおのが嗔りにかかはりもせで

春の花秋の紅葉の色も香も身をなぐさめつ嗔り無ければ

嗔らずば我を守らぬものもなし海山かけて天の下には

過ぎし世に向ひて怒り試みよ空しく消えて跡形もなし

獣《けもの》にも角生ひ蹄《ひづめ》牙歯《きば》あるはむかし嗔りしなごりとぞ聞く

あとの波は前《さき》の波とも知らねどもえにしよりこそ又起りけれ

なにごとも嗔れば破れ睦魂《むつだま》のあへる中《なか》にぞ道は成るとふ

諍はで何れの道もむつまじくつとむれば世の為《ため》とこそなれ

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折にふれて、老を歎きつつ詠める。
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いなと言へど攫《つか》みかかりて皺よりてすべなきものは老の奴《やつこ》ぞ

松生ふる荒磯《ありそ》ならねどしくしくに寄りくるものは老の年波

かりそめと思ひ結びし草の庵いつか頭《かしら》の霜枯れにけん

人かずによみ洩されて老いぬれば浮世の外に生き残るか
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