梅かをる窓のひさしに月させばやすらはでこそ起き明しつれ
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大隅国の加治木にありて。
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磯ちかく旅寝をすれば夜もすがら網引《あびき》やすらし※[#「楫+戈」、第3水準1−86−21]《かぢ》の音《と》ぞする
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衣。
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よき衣《ころも》伏籠《ふせご》にかけてそらだきの香を染《し》めてこそ著まくほしけれ
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しばしば処をかへて家居も定らねば。
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世にからく汐路ただよふ水母《くらげ》にもわれよく似たり住処《すみか》なければ
蚕《こ》の繭《まゆ》の二《ふた》ごもりにもわれ似たり人の家のみ宿とすまへば
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古事記を講じける時。
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千速ぶる神も荒《あら》びの罪しあれば千座戸《ちくらど》課《おは》せ神やらひせし
世は斯くぞ宇多の宇迦斯《うかし》に兄弟《えおと》あれど兄《え》は帰服《まつろ》はず弟《おと》ぞ仕へし
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年頃みをしヘかかふりし西賀茂神光院なる月心大阿闍梨の入寂し給ひしを悲みて。
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かりそめの雲がくれとも知らざれば隠れし月の惜まるるかな
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おなじ寺の茶所に世を避けて住みし大田垣蓮月尼は、念仏風雅の友として昔より魂合へるなからひなりしが、明治八年十一月ばかりに八十六歳にて身まかりにけり。
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しら蓮の月てふ君に別るればわが心さへなきここちする
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世を歎くことありて。
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人ごころ嗔りへつらひ物事をかすめ偸《ぬす》むぞ世の常のさま
流れての末こそ濁れおのづから澄めるは水の心なれども
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涅槃会に。
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われは我が身の行く方も知らなくに西へ入るさの月ぞみちびく
西へしも隠《こも》れば無しと歎くかなその二月《きさらぎ》の望《もち》の夜の月
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越前国にまかりける夏、井出曙覽の家の会にて。
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夕立のなごり涼しき川の洲の闇に下《お》りゐて月を待つかな
涼しくもてる夜の月のかげ見れば衣《ころも》しめりて秋ちかづきぬ
世の上のさがなきことを外《よそ》にして杜鵑のみ聞くには如かじ
あやめ草はなたち花もほのぼのと匂ふ折よく啼くほととぎす
露おびて咲けるさ百合の涼しさに垣根見めぐる夏の朝かな
背にあまる麦生の中《なか》を垂髫児等《はなりら》が蛍おひゆく夏の夕ぐれ
水層《みかさ》まし巌浪たかし五月雨《さみだれ》のふる川柳根を洗ふまで
草にさす雨夜《あまよ》の月の薄明《うすあか》り蛍と見るは露にかあるらん
草の露ひるま涼しくきこゆなり風吹く窓のしづ機のおと
萱《かや》びさし間なくしづくの打つ音に涼しくなりぬ夏の夜の雨
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嘉永元年、父のみまかりける時。
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身を分けて幾世めぐみし父なれや別れの骨にしみて悲しき
親となり子と生れしはみ仏の国にみちびくめぐみなりけん
父母の外《ほか》にわが身はなかりけり肉食《ししむらは》みて人となれれば
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おなじき六年、相州浦賀に異国のいくさ船わたりきて、世の中さわがしかりし折。
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聞きなれぬ国なればこそ駭けどその亜米利堅もおなじ日のもと
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若くて大和に遊びし折。
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和津《わつ》が野《の》に馬のりすてて青丹よし奈良路を近み徒歩《かち》ゆわれきぬ
ふるさとに芽ぐむ柳も浄御原《きよみはら》きよき昔の鞠場《まりば》なるらん
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夢三首。
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夢に見るその海山と見る我と一つとやせんあらずとやせん
有るは無く無きは見えつつ左右《かにかく》に面白きものは夢にぞありける
現《うつつ》とは何をか言はんおしなべて寝なくに人の夢は見るものを
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薩摩大隅をわたりありきて、煩はしき事ありし頃。
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笑めば笑む怒れば影も怒るなりうつる鏡に似たる
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