おほかた》朽《く》ち落ちて、其上《そのうへ》に鼠《ねずみ》の毛を※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《むし》り散《ちら》した様《やう》な埃《ほこり》と、麹《かうじ》の様な黴《かび》とが積つて居る。落ち残つた根太《ねだ》の横木《よこぎ》を一つ跨《また》いだ時、無気味《ぶきみ》な菌《きのこ》の様《やう》なものを踏んだ。
『此処《こヽ》だよ。』
中央《ちうあう》の欅《けやき》の柱《はしら》の下から、髪の毛の濃《こ》いゝ、くつきりと色の白い、面長《おもなが》な兄の、大きな瞳《ひとみ》に金《きん》の輪《わ》が二つ入《はい》つた眼が光つた。晃《あきら》兄《にい》さんは裸体《はだか》で縮緬《ちりめん》の腰巻《こしまき》一つの儘|後手《うしろで》に縛《しば》られて坐つて居る。貢さんは一目見て駭《おどろ》いたが、従来《これまで》庭の柿の樹や納屋《なや》の中に兄の縛《しば》られて切諌《せつかん》を受けるのを度々見て居るので、こんな処へ伴《つ》れて入《はい》つて縛つて置いたのは阿父さんの所作《しわざ》だと思つた。阿母《おつか》さんが裸体《はだか》の上から掛けて遣《や》つたらしい赤い毛布はずれ落ち
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