妄動
與謝野寛

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)竈場《フオオイエ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]よさの・ひろし
−−

    ×

われは曙にさまよふ影なり、
亡びんとする或物なり、
亡ぶるを否み難きものなり。
われは珊瑚の色したる灰なり、
暮れゆく春の竈場《フオオイエ》なり。

われは自《みづか》ら憐んで描きぬ、
わななきて氷の上に傾く焚火《たきび》を。
おお、この崩れ落つる火の傷ましさ、
熱もなく、音もなく、寄る人もなく…………
唯はかなげに、青みつつ薄赤し。

    ×

わが行手こそ闇なれ、真冬なれ、
あまたの児を伴れし乞丐《かたゐ》の孤独なれ。
苦痛へ、苦痛へ、氷の路へ…………
「生」の嵐は無残の爪を垂れて我に掴みかかる。

我は常に臨終《いまは》の如く呼吸《いき》ぐるし、
高く悲鳴し得ざる所以なり。
はた、我は報復《しかへし》を想はず、
怨むべき標的《あて》をさへ失ひしかば。

ただ恃むは、わが瞳《ひとみ》猶光れり、
水の底の黄金《きん》の如く。
また恃むは、我に抗《あらが》ふ力残れり、
負傷
次へ
全5ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング