妄動
與謝野寛
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)竈場《フオオイエ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]よさの・ひろし
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われは曙にさまよふ影なり、
亡びんとする或物なり、
亡ぶるを否み難きものなり。
われは珊瑚の色したる灰なり、
暮れゆく春の竈場《フオオイエ》なり。
われは自《みづか》ら憐んで描きぬ、
わななきて氷の上に傾く焚火《たきび》を。
おお、この崩れ落つる火の傷ましさ、
熱もなく、音もなく、寄る人もなく…………
唯はかなげに、青みつつ薄赤し。
×
わが行手こそ闇なれ、真冬なれ、
あまたの児を伴れし乞丐《かたゐ》の孤独なれ。
苦痛へ、苦痛へ、氷の路へ…………
「生」の嵐は無残の爪を垂れて我に掴みかかる。
我は常に臨終《いまは》の如く呼吸《いき》ぐるし、
高く悲鳴し得ざる所以なり。
はた、我は報復《しかへし》を想はず、
怨むべき標的《あて》をさへ失ひしかば。
ただ恃むは、わが瞳《ひとみ》猶光れり、
水の底の黄金《きん》の如く。
また恃むは、我に抗《あらが》ふ力残れり、
負傷
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