《てお》ひし獣《けもの》も猶その角《つの》を敵に向くる如く。
やはか、我を棄てじ、
生き得る限り生きん、生返らん。
恥辱も寧ろ我命《わがいのち》を刺激する酒となり、
老《おい》も却てわが明日《あす》の糧《かて》とならん。
我は、かよわく、蒼白き全身を露出《むきだ》し、
前《さき》に倒れし人人の血にのめりつつ進む。
苦痛へ、苦痛へ、闇の路へ…………
我は、かの「虚無」に融《と》け得ざれば。
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ゐざりよ、ゐざり、ことことと、
ゐざり車を漕ぐゐざり。
往来《ゆきき》の多い街中《まちなか》の
しき石路や、ぬかる路、
雨のふる日も晴れた日も、
樫を削《けづ》つた木の片《へら》を、
堅い二つの櫂《かい》にして、
強い駱駝が根気よく
長い沙漠を行くやうに、
醜い風姿《なり》を日に曝《さら》し、
そことめあては無いながら、
亀の歩みを続けてく。
ゐざりよ、ゐざり、ことことと、
ゐざり車を漕ぐゐざり。
彼れは素性《すじやう》も生国《しやうこく》も
とくの昔に忘れてる。
青い額《ひたひ》に、どして、また
生れた日なんか思ひ出そ。
黒い苛酷な宿命の
悪病ゆゑに身は腐り、
親きやうだいに捨
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