卒業して阿弗利加に居る父親の処へ行く時、七年の間の屋根裏《マンサルド》の生活を止めたので作つた詩ですわ。
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――その男は「地へ」だ、僕は「天へ」だ。しかし僕も屋根裏《マンサルド》まで昇れば引返すかも知れない。
――菊《クリザンテエム》の国へ引返すんでせう。
――まだ其処までは考へられない。
――あなた御存じ。
――なにを。
――マダム・タケノウチの写真がオペラの前の店に並んで居るのを。
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タケノウチを女は露西亜人の名のやうにタケノウイツチと発音するのが習慣になつて居る。おれは LES ANNALES 誌の主筆のブリツソン君が撮つて雑誌に載せた妻とおれとのまづい面《つら》の写真が複製されてグラン・ブルヴアルで売られて居ることを知つて居た。おれは南洋の土人夫婦と云つた風に撮られたあの獰猛な相の写真が妻の目に触れずに済んだことを喜んだのであつた。雑誌が公にされた時、妻はもうスエズを東へ越えて居た。
――僕も知つて居る。
と云つたが、おれは此女と妻のことに就て語りたくなかつたので、
――何かもつと面白い新消息《エコオ・ヌウボウ》があるでせう
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