塔h》。
おれは女がいつも牽いて来る毛の白い、脚の長い、狼のやうな相《アスペ》をした 〔RE'VRIER〕 種の猟犬の気はひがしなかつたのでアルアンド[#「アルアンド」はママ]だとは気づかなかつたのだ。それに次の RENDEZ−VOUS は明日の火曜日の晩に別々にポルト・サン・マルタン座を観たあとで芝居の近所の珈琲店《キヤツフエ》で待ち合せる約束であつた。おれは戸を開けた。おれの左の手にはまだ画板《パレツト》と刷毛《パンソウ》とを持つて居た。
――今日は。
――今日は。
女は紫の光沢のある黒い毛皮の外套に、同じやうな色の大黒帽《トツク》を被り犬の綱を執る代りに大きな紙包みの荷物《パケツ》を提げて居る。手袋の上から手を握らせながら、おれの頬に唇を触れたあとで、
――タケノウチさん、あなたの仕事のお邪魔になりはしないこと。
と云つた。おれは女の見慣れないけば/\しい新粧と、三十歳ぢかい女の豊満な肉の匂ひと、香水のかをりとに一種の快い圧迫を感じた。
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――そんなことはない。これは仕事ぢやなくて遊戯だもの。
[#ここで字下げ終わり]
おれは部屋の隅で徐かに手を
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