「生《せい》」とは何たるみすぼらしき語《ことば》ぞ。
寥廓《れうくわく》の不動なる路《みち》彼《か》れを塞《ふさ》ぎ、
暗き地牢《ぢろう》の底に其力《そのちから》を涸《から》しながら、
昏睡《こすゐ》せる人の無感覚こそやがて其《その》「生《せい》」なれ。
ああ、自信と、期待と、愛とは、
轢《きし》りつつ、幸福を砕き去る荒砥《あらと》ならず。
生《い》くる欲、物の欲、恐怖、
少くも、気永《きなが》に地を貪《むさぼ》り食ふ植物の如き、
勇猛に竪実なる生活。
然《しか》れども、無し、無し、「虚無」が其|欝憂《うついう》をさまよはす、
荒廃したる大歩廊の外《ほか》、何物も無し。
かくて此失楽の中に猶|蠕動《うごめ》く……大馬鹿者よ。
○
貴《あで》なる女君《をんなぎみ》よ、なつかしき身振《みぶり》もて、
開《あ》けたまへ、いとも輝かしき台《うてな》の新しき帷《とばり》を。
そは、かずかずの薔薇《さうび》の打顫《うちふる》ふいみじき花の姿を
いと疾《と》く我等に観《み》せしめ給ふため。
また許したまへ、此処《こヽ》にあるそこばくの歌を、
節会《せちゑ》の日に喜び狂ふ学生等の如く、
君が
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