二十三円の高い家賃の家へ思《おもひ》切つて引移《ひきうつ》つた。去年の末に幸ひ美奈子の長篇小説が某《なにがし》新聞社へ買取られたので、其の稿料で大崎村の諸|払《はらひ》の滞《とゞこほ》りやら麹町の新居の敷金やら引越料やらを辛《やつ》と済《すま》す事が出来た。
新しい家は二階|造《づくり》で引《ひき》越した当分の気持が実に佳《い》い。此の二階の明るい書斎でならば保雄が計画して居る長篇小説も古事記を材料にした戯曲も何《ど》うやら手が附けられ相《さう》に思はれた。引《ひき》越して五六日間は板を買つて来て棚を彼処此処《あちらこちら》に附けるのも面白いし、妻が瓦斯《ぐわす》で煮沸《にたき》をするのを子供等と一緒に成つて珍らし相《さう》に眺めたり、又|招魂社《せうこんしや》の境内へ子供等を伴《つ》れて行《い》つたりするのも気が伸々《のび/\》する様であつた。[#「。」は底本では脱落]七八日目に、
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『貴方《あなた》、此の月末《げつまつ》から何《ど》うしませう。田舎と違つて大分街では生活《くらし》が掛り相《さう》ですわ。』
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と美奈
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