の実力の定《さだま》つた連中が大分にある。今|己《おれ》の雑誌が無く成つても此の八九年間に蒔いた種はいつか芽を吹くだらう。』
[#ここで字下げ終わり]
斯《か》う相談を決めて其年の十一月に保雄は満百号の記念号限り雑誌を廃《や》めて仕舞《しま》つた。新聞雑誌の文芸記者の中には稀に保雄が永年の苦闘に同情して雑誌の廃刊を惜《をし》んだ記事を掲げた人もあつたが、大抵は冷笑的口調で、保雄の雑誌は五年|前《ぜん》に既に生命を亡《うしな》つて居たのだ、今日《こんにち》の廃刊は遅過《おそすぎ》るなどゝ書いた。
(弐)[#「(弐)」は底本では、「(一)(つゞき)」]
此春《このはる》に成つて保雄の一家は市外から麹町区へ引移《ひきうつゝ》て来た。其《それ》は長男が学齢に達したので市内の小学校に入れる為と、美奈子が五人目の子を妊娠して居るので婦人科の医師や産婆の便利の善《よ》い市街《まち》に住まうと云ふのと、保雄夫婦の心では九年間の郊外生活に厭《あ》いたので、市内に住んで家が新しく成つたら心持も新しく成つて異《かは》つた創作も出来やうと思ふのと、是《これ》等の理由から六円五十銭の家賃の家を捨てゝ
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