げつ》合せて拾五円から弐拾円位貰はぬでは無いが、会の雑誌の費用に出して仕舞《しま》ふから一|文《もん》半銭自分の身に附くのでは無かつた。
『貴方《あなた》、なんとか御考《おかんがへ》が附きませんか。』
美奈子は去年の夏の末頃到頭|堪《こら》へ切れ無いで斯《か》う言ひ出した。
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『浪人を止めて己《おれ》の身売《みうり》を為《し》ても宣《い》いが、評判の善《よ》くない己《おれ》の事だから世話の仕手《して》も有るまいて。』
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神経質の妻は眉と眉との間を顰《しか》めて、
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『そんな事を仰《おつしや》るもので無い、貴方《あなた》を勤人《つとめにん》におさせ申す位なら私、こんな襤褸《ぼろ》を下《さ》げて苦労は致しません。』
『ぢやあ、何《ど》うすれば宣《よ》い。』
『いつか仰《おつしや》つた様に雑誌を満百号限りお廃《よ》し遊せな。それは貴方《あなた》に取つても私に取つても残念ですけれど。』
『実は己《おれ》も然《さ》う考へて居る。会員には済まん様なものだが、眞田家の親子六人、命を賭けて迄維持せねば成らぬ事も有るまい。会員の中には詩
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