つて米代に為《し》て、自分は洗洒《あらひざら》しの襤褸《ぼろ》の下《さが》る様な物|計《ばか》り着て居る。四人の子供が交代に病気をするので其の介抱疲れや、新聞社と雑誌社から頼まれて夜分遅くまで投書の和歌を添削する所から其の安眠不足などの所為《せゐ》で、近年|滅切《めつき》り身体《からだ》が痩せこけて顔色も青褪《あをざ》めて居る。妻の此の生活に疲れた状《さま》が保雄の心には気の毒で成らぬけれども、此の境遇から救ひ出す方法も附か無いので腑甲斐《ふがひ》ない良人《をつと》だと心の内で泣乍《なきなが》ら已《や》むを得ず其日其日《そのひ/\》を無駄に送るより外は無かつた。実際妻が身体《からだ》を壊す迄働いて月々|纔《わづか》に得《う》る参拾伍六円の収入が無かつたなら眞田の親子六人は疾《と》くに養育院へでも送られて居たであらう。此の妻の収入があるので米代と薪炭《しんたん》費丈は先《ま》づ支へる事が出来た。其上妻は暇の無い中から時々小説とかお伽噺とか女子書翰文とか自分の歌集とかを作つて、其の原稿料で家賃の滞《とゞごほ》りや薬価《やくか》や牛乳代の足《た》しにする。保雄も会の方から会員の謝礼を毎|月《
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