下げ]
『兄《にい》さん、今度は僕と兄《にい》さんの抽出《ひきだし》ですよ。』
[#ここで字下げ終わり]
『新聞社から差押に来たんだ。』
兄の勇雄《いさを》は父と母の話を聞き噛《かぢ》つて此んな事を言つて居る。悪い所をば小供等に見せる事だと両親《ふたおや》は心の内で思つたが、差押に慣れた幼い二人は存外平気である。[#「。」は底本では脱落]
『兄《にい》さん、まだ箪笥へ紙を張らないのね。』
『あとで張るんだらう。』
『二人とも門口《かどぐち》で遊べ。』
と保雄は怒鳴《どな》つた。二番目の抽出《ひきだし》からは二人の男の子の着類《きるゐ》が出て来た。皆洗ひ晒しの木綿物の単衣《ひとへ》計《ばか》りであつた。三番目の抽出《ひきだし》から出たのは二人の女《をなご》の子の物|計《ばか》りで、色の褪《さ》めたメリンスの単衣《ひとへ》が五六枚、外へ此《こゝ》の双生児《ふたご》の娘が生れた時、美奈子が某《なにがし》書店に頼んでお伽噺を書かせて貰つて其の稿料で拵《こしら》へた、緋の羽二重に花菱の定紋《ぢやうもん》を抜いた一対の産衣《うぶぎ》が萎《な》へばんでは居《を》るが目立つて艶《なまめ》かしい。最後の
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